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小説3「地獄の王」

第5章、第二都市2ー桜並木、運動場
「空気が変わったわ。」

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青色の文字は、私(主人公)の気持ちや考えていることです。
灰色の文字は、作者の言葉です。
太字の「」は、大きな声や音です。

窪地から学校まで

並木道周辺の状況です。

窪地から道が続いている。その右側には木が並木道のように立ち並んでいるが
どの木の葉もしおれ、所々黄色いシミが見え元気がない。道端の草や花もしおれ、所々
茶色くなっている。
オフィーリアが周りを見渡し
「土の中の水がないんだわ。この下に通っている水があの窪地に流れていたと考えると、
原因はこの先にあるようね。」
「この先は学校だけど…」と私はメモを見る。
マーズちゃんは私を見て
「降魔術のせいだと思うか?」
私は首を横に振り
「まだわからない。とりあえず学校に行ってみないと…」
そう言って、再び道に沿って歩き出す。女神たちも付いてきた。
木は桜らしい。いつもだったらピンク色の花が咲き誇っているのだろうが、
澄み切った青空と対照的にどんよりと沈んでいる。
フローラが
「空気が変わったわ。」
「えっ、なんの?」と私。他の女神たちも立ち止まりフローラを見ている。
「澪ちゃんのおかげよ。」と言うと、フローラは鏡を取り出し
「花たちよ! もう大丈夫、元気になぁれ!」
とその鏡を高々と差し上げる。光のシャワーが周囲に注がれ草や花や木々の緑が
鮮やかに蘇った。
「すごーい!」と私
「そういう使い方もできるんだな。」とマーズちゃんも感心する。
「おー!」とバッカス
「ワー!」とオフィーリアも手を叩いている。
フローラの表情が沈み
「でも一時的なものよ、お水がないと…」
「急ごう!」
と私が言うと、4人の女神たちも同時にうなづき早足で歩き出した。

並木道を抜けると道だけがさらに先へと続き、その先には頭で浮かんでいたのと同じ
重たい鉄の扉がピッタリと閉まり、その間には5つのコンクリートの柱が立っている。
その向こうには、サッカー場1つ分とその周囲に陸上の200m走のトラックが入るほどの
広さの地面があり、そこでは亡者たちが学校の中の者を出さないように隙間なくひしめいていた。
サファロスが言っていたように(4-3)屋上から
きゃー!! マーズ様!
とマーズちゃんの部下たちが小躍りして飛び跳ね、マーズちゃんがうれしそうに「よう。」
と歩きながら手を振っている。その部下たちの横でアオバが
隊長!」と長い棒を振っているのが見え、私も笑顔で手を振り返す。
バッカスは機嫌良く歌を歌い出し、バッカスとフローラの部下たちが校舎の横の体育館から出てきて
口々に「バッカス様!」、「フローラ様!」と手を振って、飛び跳ねている。
やがて体育館の中の都市の人たちが少しづつ出てきた。市長さんもいて、一緒に手を振っている。
校舎の2階の窓が開き、黄色い髪と緑色の髪以外はまったく瓜二つの二人の女の子たちが
身を乗り出し手を振っている。私の横でオフィーリアが
「あれがナナとミミよ。ナナー!ミミー!」と手を振り始めた。
そこから左3つ目の窓からヨシツネが身を乗り出し、嬉しそうに手を振っている。
私も手を振り、周囲の亡者たちを斬りつけながら学校へと歩いて行く。
3階の窓から、体の大きな男がハンマーを手に持ち、もう片方の手で大きく振っている。
オフィーリアが
「あれがタガメよ。タガメー!」と手を振り回すと、タガメはさらに嬉しそうに
泣きそうな表情で、手をブンブンと振り回す。
目の前に正門が迫ってきた。なので、とりあえず私は真ん中の柱の上に乗り、立ち上がる。
女神たちも同じように柱の上によじ登った。一番左側の柱からバッカスの歌が
学校中に流れ、その隣がマーズちゃん、私、オフィーリア、フローラがそれぞれ柱の上に立ち、
校舎や体育館の人たちに手を振っている。

一方その下では、亡者たちが私たちの登場に慌てふためいている。どうしたものかと
柱の上の私たちを狙っている。(申し訳ないが全員、地獄へと帰ってもらおう、
でないと向こうに行くことができないので…)
と思いながら、私は運動場に飛び降りた。
今まで自分たちをあんなに苦しめていた亡者たちが、私が歩きながら鼻歌を歌うように
刀を一振りするたびに2、3体が一気に切られ、アッという間に運動場が亡者たちの
死体と血に染まっていくのを、都市の人たちが体育館の手すりから唖然とした様子で見ている。
一方の部下たちは興奮し、アオバは
隊長! 俺も行きます!
と、ヨシツネと同時に飛び降り私の近くで亡者たちを倒し始めた。
マーズちゃんが運動場に火を投げ入れると、屋上からトカレフたちが亡者に向けて
ダダダダダダダダっ!
と銃を撃っていく。その間をバッカスのウットリする歌声が流れ…亡者たちには地獄絵図だろう。
一方の副隊長と藍白は、奥の渡り廊下の辺りで戦っているようだ。
もうすぐ、寮にいる生徒たちと先生たちも出てくるだろう。

やがて、あらかた倒し終わり私のマントが真っ赤に染まる頃、校舎の中から色とりどりの
袴を着た生徒たちが出てきて、血の海の中に立っている血まみれの私に唖然とする。さらに
襲いかかってきた犬のような亡者を2体、私が刀を出し一振りで真っ二つに倒すと、さらに
目を見開き、倒された亡者たちの死骸をさらに唖然とした様子で見下ろしている。その後ろには
副隊長と藍白の姿が見える。
私は正門の方に向き直り、柱の上で立ちつくしているオフィーリアの所へ向かう。
後の3人はすでに下りていて口々に
「下りられます?」
「顔色悪いぜ。」
「下りられねえのか?」
と心配そうに、オフィーリアの立っている柱の下に集まっている。
生徒たちの間から、ナナとミミが「オフィーリア様!」と駆けてくる。さらにその後ろから
ドスドスとタガメが走って来た。その上を藍白が軽々と乗り越えオフィーリアの所まで飛び上がり、
彼女を抱きかかえたまま再び軽々と、私たちを飛び越え運動場へと下り立った。その周りをナナとミミ
タガメが笑顔で取り囲む。
フローラ、バッカス、マーズちゃんたちも、いつのまにか部下たちの笑顔に囲まれている。
私の所にも、アオバとヨシツネが笑顔で来た。その後ろから、副隊長も口元に笑みを浮かべ
「お疲れさんです。」
アオバとヨシツネも元気良く
「お疲れさまです。」
と挨拶してくれる。私は笑顔で
「うん、お疲れ、ありがとね、みんなが学校の運動場に引きつけておいてくれたから、
村の方は被害が少なかったよ。」
と言うと、一瞬、アオバとヨシツネの表情が笑顔のまま止まったかと思うと、二人の目から
涙が溢れ出て、片腕で涙を拭いながら
「よかったな! ヨシツネ。」
とアオバは肩を叩き、ヨシツネは
「はい! 苦労がむくわれた!」
と同じように片腕で涙を拭う。その二人の後ろで自分を見ている副隊長のやさしい穏やかな目が
合った。
後ろの方や周囲から、他の部下たちの笑い声が聞こえてくる。(良かった、大丈夫そうだ。)

みんな無事な様子で、ホッと安心しました。
次は、市長さん以外の第二都市の人たちと対面します。

バッカスが、運動場で歌っていた歌を公表しています。
資料室内の「挿入歌」のページをご覧下さい。

次回
第5章、第二都市3ー運動場「第二都市が普通に生活できるまで」

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