虹色らいんcom

小説3「地獄の王」

第5章、第二都市3ー運動場
「第二都市が普通に生活できるまで」

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青色の文字は、私(主人公)の気持ちや考えていることです。
灰色の文字は、作者の言葉です。

体育館から出てきた都市の人たちの間を抜って、市長と校長先生らしき人が出てきた。その場にいる
全員の目が二人に注がれる。市長が前に進み出て
「ありがとうございました。」と頭を下げた。
私が軽く頭を下げると、その場に居る人たち全員が頭を下げる。市長は頭を上げ
「えっと、それでですね…えーと…その転入するというのはどういった…えーと…」
後ろの生徒たちからクスクスと笑い声が聞こえてくる。見かねた隣の校長先生らしき人が
「市長、ここからは私が…」
「あーそうですね、えっと…こちらがこの学校の校長の吉谷君です。」
そう紹介された吉谷校長先生(以下、校長先生)は、上品そうな印象で、所々ほつれた黒髪に
黒い髭、黒いスーツにグレーの水玉のネクタイとやさしそうな感じだ。で、その校長先生が

「はじめまして、校長の吉谷です。」
と頭を下げたので、私と女神たちと部下たち全員が頭を下げる。
「転入のお話は市長から聞いております。えー皆様には転入届は必要ありません。特例として
認めます。で、本当にこの学校に転入するおつもりですか?」
といって私の目を見た。(なかなか良くできた校長だ。真っ先に私に訊いてくるとは…)
部下たちだけでなく、その場にいる全員の目が私に注目する。私はうなづき
「第二都市が普通に生活できるまで。」
校長先生や他の都市の人たち全員が息を飲んだ。そして再び校長先生が
「えーとですね…まず何からしたらいいのやら…ごらんの通りの悲惨な状況でして…。」
「そうですね、都市の再建はそちらに任せます。私たちは亡者たちを地獄に送り返すために
来ただけですから。」
と言うと、私以外の女神と部下たち全員がうなづいた。
「えっと、ではまず何から?」
「A地区から行きます。先程、A地区の横を通って来たんですけど…」
「えっ、あそこをですか?」
と校長がびっくりし、ザワザワと都市の人たちがどよめいている。私はかまわず続けて
「A地区の近くに窪地があったんですけど、前は沼か池だったようですね。水が干上がってて
魚の死骸があって」
「虹池が!?」
都市の人たちがどよめいている。知らなかったようだ。私の部下たちも知らなかったのか
「虹池って?」と互いに顔を見合わせている。私は続けて

「で、その虹池からここに来るまで、並木道の木や花や草が萎れていて茶色くなっていたりしてたんで
一時的に花の女神のフローラが元気を分け与えて」
そのフローラが都市の人たちにしおらしく頭を下げ
「おぉー!」
「かわいー!」
「きれー!」
という声が、都市の人たちや生徒たちからあがる。私は苦笑しながら
「で虹池の方は、川の女神オフィーリアが」
と言うと同時に、オフィーリアが頭のフードを取ると
「おぉー!!」
「すごい!、かわいー!」
さらに歓声があがり、どよめきが起こる。その隣の藍白は面白くないといった顔をしている。
私は続けて
「で、オフィーリアが水の出る鏡を虹池の底に置いてくれて、そのおかげで今、水が
溜まってきています。」
と言うと再び
「おぉー!!」
「ありがたい!」と言った声と共にどよめきが起こり
「で、後はオフィーリアから」
そう言って、部下たちと共に私の近くまで来たオフィーリアの方に目をやった。
オフィーリアはしっかりした口調で
「今、並木道からA地区の滝に至るまで水が出ておりませんの、誰か原因はおわかりですか?」
都市の中から1人の男の人が後ろを振り向き、手を伸ばして
「えっと…あれは、ここ(学校)を通って、B通ってC通って…。」
と水の流れを指し示し、ナナがオフィーリアに
「姫、この学校の水も、蛇口をひねっても出てきません。」
と言い、他の部下たちもうなずいている。
先生らしき20代の赤い縁のメガネをかけた黒い髪に黒い目、黒いワンピースを着た女性が
「寮の水道も同じです。」
と言い、先生や生徒たちもうなずいた。
「昨日のお昼頃までは出たわよ。」
と、都市の人たちの中から中年の女性の声が上がり
「夕方の5時頃には止まってたわ。食事を作ろうとしたんだけど…。」
と、こちらは中年のメガネをかけた女性
(やっぱり、あれ(地獄の穴-第2章を参照)が原因? どうしようかな?)
オフィーリアが
「では一時的に、私がこの学校から虹池まで水を流します。」
「大丈夫ですか? 姫」とナナ
「おやめになったほうが…。」とミミ
タガメも心配そうだ。
「姫のお体が…。」と藍白
オフィーリアは私を見て
「1週間ほどで、A地区の亡者たちを制圧できます?」
私は指で2を形作り「2日でできるよ。」
「えぇー!?」と周囲から声が上がり
「あんなに、たくさんいるのに?」
「できるかも…あんなにいたのに…。」
と都市の人たちから正反対の意見があがり、さっきまで亡者たちが足の踏み場もないほど
うごめき、ひしめきあっていた運動場の方に目をやる。

運動場の血はほとんどなくなり、残すは亡者たちの残骸がいくつか転がっているにすぎない。
私の部下たちも互いにうなずきあい、副隊長が藍白たちに「問題ない。」とうなずいている。
私は、後ろの方のマーズちゃんに
「さっき屋上から撃ってきたみたいに、崖の上から援護して欲しいんだけど…。」
「いいぜ。」とうなずき、その部下たちもしっかりとうなずいた。
私は、都市の人たちの方を向いている校長先生に
「あの、明日の朝からさっそくA地区の方を始めます。」
「えっ、明日の朝からですか?」
「はい、だいたい計画ができたんで、で、明日、明後日はA地区の方に専念して、次の日から
正式に入学ということで」
「わ、わかりました。じゃ、学校の方を案内いたします。」
「はい、お願いします。」と私は一礼し、女神たちと部下たちも一礼した。
 生徒たちから「わぁー!」と歓声が上がる。
「じゃ、さっそくこちらへ」と校長先生は、先生や生徒たちの方に行き
「寮の方をお願いします。」
20代の、臙脂(えんじ)色のジャージ姿の、体育教師らしい男の先生が
「わかりました。よし! みんな片付けにいくぞ!」と元気よく声をかけ
「はぁい!」と生徒たちも素直に返事をし、下駄箱のある玄関の方へと歩いていく。
私は頭の中に出てきた女の子(4章の4)を目で探したが、いない。
副隊長が小声で「誰をお捜しですか?」
「えっ、別に。」と私
「なんだよ?」とマーズちゃん
「どうしました?」と校長先生が振り向き
「残っている生徒は、あれで全員ですか?」
「はい、そうです…あの悪霊たちに襲われるまでは先生を含めて100人ほどいたんですけど
残っているのはあの子たちだけで…また寮の方でゆっくり説明します。」
突然、横から「音楽教師って残ってる?」とバッカスがたずね
フローラが呆れたように
「音楽教師になるおつもりで来たんですのね。」
「あのな、この俺が生徒ってガラか?」とバッカス。その横で、彼女の部下たちは3人とも
苦笑している。
「それは助かりますが、先に校舎の方を…」と苦笑いしている校長先生の後について全員が
歩き始めた。

次回
第5章、第二都市4ー校舎「空気が変わりました。」

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