第3章、村と居酒屋
3,「私の子供! 子供を知りませんか?」
・青色の()は、私(主人公)の気持ちや考えていることです。
・太字の「」は、大きな音や複数人の声です。
目次
2025年 5月 19日、編集しました。
ケイトさんの居酒屋の広告の、イメージ画像です。
スコットランド・ゲール語で「ようこそ、居酒屋ケイトの、お昼から夜まで」
と書かれています。
この居酒屋について、もっと知りたい方は、こちらをクリック
ケイトの居酒屋で、「乾杯!」
フローラが、水の入ったコップを持ってきたお姉さんを紹介する。
茶色い髪を後ろで1つにくくり、Tシャツにズボン、水色のエプロンを着た、見た目
30〜40代の女性が、楽しそうな表情で
「ウェイトレス兼コックのケイトよ。みんな、オムライス食べる?」
私たち3人がうなづいたので、彼女は調理場へと引っ込んだ。
バッカスと飲んでいた男たちが来て
「みんな、お酒は飲むかな?」
「ケイト! ジョッキ4杯、持ってきて!」と、調理場に向かって叫ぶ。
彼女は調理場から顔を出すと、にっこり笑ってうなづき、すぐに引っ込んだ。
バッカスがさらに上機嫌になり
「お前ら、俺の歌*が聴きたいか?」
「おおー!」
「バッカスちゃん、歌って!」
男たちは、うっとりと耳を傾け、ケイトさんもジョッキを4杯カウンターに置いたまま
うっとりと聴き惚れている。
私たち4人は立ち上がり、カウンターのジョッキを受け取ると、席に戻り
「乾杯!」と、ジョッキを掲げる。
バッカスが突然
「てめぇら!俺抜きで乾杯しようってのか!」と、私たちを指差し
「お前、さっきまで歌ってたじゃねぇか!」とマーズちゃん
「もう、飲んでるじゃありませんの。」とオフィーリア
「さっき、そちらで乾杯してましたでしょ。」とフローラ
「じゃ、一緒に乾杯しよ。」と私
「おぉー! 俺たちも」と、男たちもジョッキを掲げる。
ケイトさんは、料理の続きをしに、笑顔で調理場に引っ込んだ。
マーズちゃんが、私に向かって
「お前が音頭をとれ、この張本人。」
「うん、みんな、ごめん。でもって、ありがとう! 乾杯!」と、ジョッキを掲げると
「乾杯!! 」
という声が居酒屋内に響き渡り、バッカスも私たち4人とジョッキを『カチン!』
と鳴らし、お酒を口に含む。
「うん、おいしい!」と私
「フルーティね。」とオフィーリア
「うん。」と、マーズちゃんとフローラもうなずいて、再び口に含み
バッカスは「だろっ! だろっ!」と自分の作ったお酒のようにうれしそう。
「よっしゃ! お前ら、歌の続きだ!」
「待ってました! バッカスちゃん!」
「ヒュー! ひゅー!」と口笛が飛び交う。
再びバッカスが歌い始めると、男たちも一緒に歌い始めた。
『澪木』は水先案内人
ケイトさんと男たちが口ずさみながら、オムライスにポテトサラダ、他にも次々とたくさんの料理を運んでくる。
「素敵な歌を聴かせてくれたお礼よ。」とケイトさん
私たち4人は、さっそくスプーンやフォーク、小皿を手に取り食べ始めた。
私は歌を聴きながら、食べ物を口に運び
「名前を何にしようかな?」とつぶやく。
私には、女神たちのような名前はない。女神たちも、人の付けた名前で気に入ったものを使っているだけで、初めから決まっているわけではない。私の部下たちも、呼びやすいように私が付けたものだ。
(んー『プルートー』じゃ露骨すぎるしなー、私の場合は、単に誰も付けてくれる者がいなかっただけなので・・・)。
「澪木は?」とマーズちゃん
「水先案内のために立てた木のこと、ですわね。」とオフィーリア
「澪木か、うーん・・・・。」と、私は考え込む。
「私たちの案内役ですものね。」とフローラ
「澪ちゃん、どうしたの?」と、男たちが声をかけてくる。
(あっ、私か・・・はやっ!てことは、もう決まったようなものか。)
声をかけてきた男の一人が、私の胸元を覗き込み、顔色が変わる。
(あー見られちゃった。さっき戦った時に付いた血が・・血だけ消すのって、けっこう面倒くさいんだよな・・フードをずっとかぶっているのも、おかしいだろうし・・・。)
子供が行方不明!?
マーズちゃんが立ち上がり
「行こうぜ。お姉さん、これ持ち帰りに」
と言ったのと同時に
「バァン!!」とドアが開いて
「誰か! 私の子供、子供を知りませんか!!」
30代ぐらいの、髪を振り乱した女性が慌てて入って来た。その後ろから同年代の男性も入って来る。
二人は夫婦のようで、その男性が
「すみません、いきなり。実はうちの子が帰って来なくて・・・。」
「えっ、ゆうとくんが? 夕方、角の辺りで友達と遊んでたわよ。」とケイトさん
「昼飯の後、うちのと遊んでいるのを見たぜ。」
「俺も見た!」
「うちのやつに聞いてみたか?」
「夕方、角の辺りで別れたって。」と入って来た男性
私はますます嫌な予感がしてくる(うわー最悪の方に向かってる)。
私は暑くもないのに額の汗を拭うと、汗と一緒に髪に付いていた亡者の血も手の甲に付いてきた。
女神たちが、不安な表情で私を見ている。
私は、ハンカチでそれを拭うと立ち上がり
「すみません、最後に見たのって、どの辺りですか?」
ケイトさんが、カウンターから身を乗り出し
「この前の道を、右へまっすぐ行った突き当たりよ、T 字路になってる辺り。」
「ありがとう。」
私は、先ほど入ってきた二人の横を
「ごめんなさい。」と言ってすり抜け、店の外へと飛び出した。
右の方に走って行くと、2、30mほどで T 字路に突き当たる。
その向こうは、真っ暗で野原のようだ。
私がキョロキョロと、左右の T 字路を見回していると、女神たちが、居酒屋から持ち帰りにしてもらった夕食の入った紙箱を持って、駆けて来た。その後ろから、あの男女2人と男たちとケイトさんが出て来る。周りの建物の窓からも、こっちを見ている女性の顔が見える。
(この様子だと、まだ、亡者たちは来ていないのか。第二都市で部下たちが、必死で頑張ってくれているおかげだ。)
私は、再び店の近くまで行き
「もう帰ります、ありがとう。ごちそうさまでした。」
頭を下げ、T 字路の前を突っ切り(よかった、野原だ。)カサッカサッと草の音をさせながら、闇の中に消え入るように入って行った。
* バッカスが男たちと居酒屋で歌った歌は
「Johnny I Hardly Knew Ye(ジョニーは戦場に行った)」です。
イメージとしては、The Irish Roversのアルバム「The Irish Rovers 50 years, Vol.2」の中の曲が近いです。
男性が歌っているので、村の男たちがはやし立てているイメージが湧いてきます。
なお、文章内のリンク先は、このホームページ『虹色らいん.com』の『資料室』です。
次回
第4章ー砂漠
1,「俺のステージに来てたぜ、2、3ヶ月前だったかな」