寮と学校と運動場の位置を図示しています。
第7章ー寮(食堂)
1,「銀河からってことになりますか?」
本編には死体が出てきます。苦手な方はご注意ください。
青色の()の文字は、私(主人公)の気持ちや考えていることです。
太字の「」は、大きな音や声です。
灰色の()の文字は、作者による注釈、フリガナです。
目次
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「亡者じゃない。」
人々が死体に駆け寄り
「寮母さんだ‼︎」
「マリーさん!?」
「由美! どうしてこんな所に?」
(あの子、由美っていうんだ!)死体に駆け寄る人たちを見ながら、私はイモ虫を真っ二つに割って
みる。副隊長にも
「真っ二つにしてみて。」
透明な体液以外、何も出てこない。肌色の肉がびっしりと詰まっている感じだ。所々から糸屑のような毛がたくさん出ている。
「これが死体の腕を食べたとでも?」と副隊長
「うん、でも違うみたい。(じゃ腕はどこに?)」
その横で次々と、死体に白いシーツが掛けられていく。
横からフローラが
「あの寮母さん、殺されてましたのね。」
「全然、気づかなかったぜ。」とバッカス
私はうなづくと、両手のイモ虫を(副隊長の分も一緒に)シーツで包み、とりあえず床に転がし
寮母さんに化けていた亡者の所へ行く。
額にはマーズちゃんの撃った銃弾がくっきりと打ち込まれ、顔はシワシワで、皮膚の色は茶色に
変色し、両目は白く濁っている。(亡者は死んだ寮母さんを利用した、だから裸だった。服は亡者が
剥ぎ取ったのか? でも、あの機械室から出てきた時の慌てた様子は・・知らなかったのか? それとも
演技?・・水を流すのに必死のオフィーリアたちの隙をついて・・・・・。)
横からマーズちゃんが
「うまく化けたよなぁ、こういう奴もいるのか? 亡者の中に」
「う〜ん・・・亡者じゃない。」と私。
「マジかよ!」とマーズちゃん、その後ろの部下たちも「えぇ!?」と驚いている。
「違いますね。」と副隊長
「亡者は、ここまでうまく化けられないんすよ、もし化けてたら、会った時にすぐわかるっす。」
とアオバ
「うん。」とヨシツネもうなづいている。
「銀河からってことになりますか?」
トカレフが
「マーズ様、銀河からってことになりますか?」
「だよな。」とマーズちゃんが考え込む。
「そういやさ、2、3ヶ月前だったかな? 見たぜ、流れ星。」とバッカス
「はい、あれはライブの帰りでしたかね?」とサイケ
「第二都市の方角だった。」とメロディー
「あたし、てっきり市長さんが報告してると思って・・。」とハピラキがすまなそうにし、サイケと
メロディーもうなづいている。
銀河には星を征服しようと考えている者がいるので、流れ星を見た場合は、必ずアルテミスに報告
しなければならない。
私たち全員の目が市長さんや都市の人たちの方に向き、市長さんが
「あの3ヶ月前ですか? C地区の方に落ちまして、アルテミス様に報告しましたけど・・。」
「聞いてませんよ!」
アルテミスが腰に手を当て、怒った表情で私の横に立った。
「うわっ!」
女神たちのことをあまり知らない市長さんを含め都市の人たちは、ビックリしている。
窓から入ってくる太陽の日差しは、いつしか夕焼け色に染まっている。(一番星が出ている頃か。)アルテミスは、星が出ていない日中は滅多に出てこない。
市長さんは慌てながら
「あ、あのアルテミス様の部下に報告しました、本当です。」
と言ってる背後から、都市の男性が
「市長! 円盤が!それもめちゃくちゃデッカイ!」
他の人たちは、開け放たれた出入り口から外を覗き込み騒いでいる。
色とりどりの四角い光った窓がある、運動場ほどの大きさの黒い物体が、校舎の窓や下駄箱の
向こうの運動場にあるのが見える。
「銀河連合の船です。」
「銀河連合の船です。」とアルテミス
「早えー。」
部下たちから声が上がる。
出入り口には、いつのまにか前髪から肩まできっちり揃えられた金髪に、銀色の目、クリーム色の
胸ポケットやベルトが付いた白いスーツを着た、無表情でキリッとした顔立ちの女性(以下、すべて
女性)が立っていた。知った顔だ。
「うわっ!」
都市の人たちや、さらには部下や女神たちまでが「誰?」といった表情で驚いている。
その人物は無表情で静かに歩いて来て、私とアルテミスの前に倒れている偽寮母の死体の前で立ち
止まり、直立不動で
「お久しぶりです。」
「お疲れ。」と私、さらに続けて「これ(偽寮母)とそのイモ虫は持って行って良いから、で、あの
2人は誰か、都市の人たちに訊(キ)いて。化けてるかもしれない。で、裸なのは、たぶん服だけ
食べたんだと思う。繭(マユ)を作るために、で、あの女の子(由美ちゃん)は、お別れしたいので
ちょっと待って。」
「わかりました。」
と言って女性が後ろを振り向くと、円盤から下りて来ていた黒いサングラスに銀色のスーツを着た
部下たちが、黙々と担架を持って来て、白いスーツがかぶされた死体を載せて運んでいく。
寮の1階の見取り図です。(2023年5月5日変更しました)
お腹を押さえて泣いていた女の子
さっそく私は、寮の入って左手側(女性の部屋が並んでいる)ベランダの下に置かれている
由美ちゃんの遺体の前に行き、片膝をついて顔をじっと見る。(ありがとう。あなたのおかげで
助かったよ。右腕は必ず見つけるからね。)
背後から銀河連合の女性が
「後ろの3体は、かまいませんか?」
「あー・・もうお別れの挨拶はいいですか?」
私はしゃがんだまま振り返り、第二都市の人たちを見回す。
全員がうなずいたので
「良いって。」
その女性がうなずくと、部下の人たちが担架に載せて運んで行く。
アルテミスが私の横に座り
「知り合い?」
その後ろに、女性や女神たちや部下たちが集まって来た。
「うん、右腕を見つけないと。」
私は立ち上がり、ふと上を見上げる。
3階のベランダに、今朝、砂漠で亡者を送り返していた時に頭の中に出て来た、お腹を押さえて泣いて
いた女の子が(第4章ー4)、その時と同じ服装で立って見下ろしていた。その女の子は私と目が合うと
ハッとした表情になり、左の方(大浴室がある方)へ走って行ってしまった。
背後から
「どうしたんだ? 川原のやつ。」とジャージ姿の教師の声
「どうしたんだろう?」
「親友が亡くなったってのに・・。」
他の女生徒たちの声も聞こえてくる。
(カワハラっていうんだ、あの子。)と思いながら後ろの女性にうなづいて、そこから離れ
女性は部下にうなづき、部下たちは死体を担架に載せて運んで行く。その後ろから女性も
出て行った。
市長が、恐る恐る
「あのーアルテミス様。」
アルテミスは振り向き、腕組みし
「今回は、そういう事にしておきます。バッカスたちも報告を怠った様ですし・・。」
「チェッ!」とバッカスは舌打ちし
「すみません。」と市長
サイケとメロディー、ハピラキは「ごめんなさい。」と申し訳なさそうに頭を下げている。
私はアルテミスに
「第三都市の方はどう?」
「特に変わりはないんだけど、穏やかじゃないわね。」
「穏やかじゃないって、どんな?」
アルテミスは少し上を向き
「んー空気が緊張している、というか星たちも落ち着きがないし、あなたが来る前の第二都市みたいな・・・。」
「あー。」
私以外の女神と部下たち全員が、納得した様子でうなずく。
「ごめん、全然わからない。」と私が言うと
「あら、まあ」
アルテミスは口に手を当て笑顔になり、部下たちも笑顔になった。
「じゃ、もう帰るわね。」
「うん、お疲れ。」
そう言うと、アルテミスは笑顔のまま、その場から消えた。
次回
第7章ー寮(食堂)
2,「3階の1番奥の突き当たりの部屋は行かないほうがいいわ、幽霊が出るから。」