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小説3「地獄の王」

第1章、王宮
4,「第二都市の学校に入学します。」

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・ 青色の()は、私(主人公)の気持ちや考えていることです。
・()の中の灰色の文字は、作者による注釈、フリガナです。
小さい文字は、小声や小さな音を表しています。

目次

鏡の盗難事件

犯人はハップル博士

「第二都市の学校に入学します。」

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4個の鏡

鏡の盗難事件

私は一瞬迷うも
「アルテミスからどうぞ。」と、片手で指し示し
アルテミスはそのキラキラした瞳で、じっと宙を見て考え込む。
隣の部下が小声で
アルテミス様、あの鏡のことでございますか?
「そうよ」
と、部下を見てうなずき
「あっ、この間の鏡?」と私

 

前回の定例会議の時、アルテミスの屋敷で、マーズちゃんやフローラ、オフィーリアと一緒に小さな
手鏡用の鏡を作っていた。
その時は、本体の鏡を作った所までで終わり、『手鏡の土台は次回』ということになっていた。

バッカスが
「聞いてねえよ!」
「お前、酔ってて起きなかっただろう。」とマーズちゃん
「頭が痛い、と言ってましたわ。」とオフィーリアが身を乗り出し
「オフィーリアとお部屋まで行きましたのに・・・ベッドから起きようとしなくて寝てしまいましたでしょ。」とフローラ
リリスとバッカスの部下たちが「ふう・・・」とため息をついている。
私は全てを察し
「あー頭が痛いって言って、来なければ良かったね。」
「土台から先に作れば良かったのよ。」と、アルテミスが胸元に左手を差し込み取り出した。
その左手は握り締められ、開くと5㎝四方の正方形や菱(ヒシ)形、ハート型、丸型のキラキラした鏡がある。
アルテミスが隣のマーズちゃんに菱形、その部下が立ち上がり、ハート型をフローラ、丸型を私に
正方形をオフィーリアに手渡した。

 

(『物を作る』ということは『自分の力を込める』ということであり、それが手を加えれば加えるほど
力がこもり、それ自体が力を持ち始める。
特に鏡といったものは、昔から魔の力がこもり、悪魔を呼び出す道具などに使われてきた。)

(この小説内での私(主人公)の説です。)

犯人はハップル博士

 

私は手元の鏡を見つめる。
(誰かがよく似せた偽物の鏡とすり替えた。あの鏡から地獄の亡者達を呼び出されては困る。)
鏡の中に頭頂部がはげ、その周囲に白いふさふさした毛をはやした初老の、白い白衣のような服を
着た科学者風の男性が映った。
私は後ろを振り向き、立ち上がって腕組みして覗き込んでいる私の1番目の部下の副隊長(20代の
男性、黒い着物、黒い短髪、黒目でがっしりした体格)

「ほらっ、犯人。」
副隊長は顔をしかめ
「何も映っていませんけど・・・。」
サイケと、フローラの部下のヒアキッソスも立ち上がって覗き込み、首を傾げている。
私はサイケに
「回していって。」と言って、渡した。
彼は、うなずいて受け取り、それをバッカスに見せ、彼女は鏡を見るなり
「あー、こいつ誰だったかな?」
と、頭を掻きながら考え込み、右隣のリリスに渡す。
リリスと部下のララも覗き込み、ララは首をかしげるも
「あらっ、えーと・・どのコンサートだったかしら?」
とリリスは考え込み、隣のオフィーリアの部下の藍白に渡す。
リリスはしばらく考え込んでいたが、やがて、ララから鉛筆と紙をもらいサササッと似顔絵を描き始めた。(さすが、リリス。)彼女は芸能の女神であり、全ての芸術、芸能に秀でている。
その様子をバッカスと部下たちが覗き込んでいる。
アルテミスが私に
「それで?」
「えーと・・たぶん根っこは同じだと思うんだけど・・いや、違うかな?(たぶん市長さんは本当に
何も知らないようだし、あったら言うだろうし、んー・・どうしようかな?)
」と考えているうちに
鏡と似顔絵はキングの手に渡り、クリスと市長さんも覗き込んでいる。
「あーどこかで見ましたかな?」と市長さん。
クリスも
「わかりません。」と首を傾げている。
「ふん!しけた面(ツラ)じゃのう、どれ、余が複写して市内にばらまこうぞ。」
そう言うと、彼の後頭部辺りに白色の渦が巻き、しだいにその渦が円というより靄(モヤ)の様に大きくなっていき、中から似顔絵の描かれた紙が絵の方を上にして、1枚ずつ飛ぶようにして次々とキングの前に重なっていく。
それが、瞬く間に10㎝ほどに積み上がり、女神たちと部下たちに10枚づつほど配られた。
副隊長も自分の部下の人数分をもらい、その中の1枚を眺めている。

 

私が意を決して立ち上がったところで、アルテミスが似顔絵を見ながら
「この人、あの人よね。ホウキ星の・・・なんて言ったかしら?」
と、部下のべロニカを見る。彼女はうなずき
「銀河連合刑務所から先月出所した、ハップル 博士です。」
と言ってA4サイズ(雑誌ぐらいの大きさ)の、ぶ厚いファイルから1枚の紙を取り出し、アルテミスに渡す。
アルテミスがキングに
「これも複写して。」
と言って渡し、彼はしばらくそれを眺めていたが、
「ふんっ!」
再び後ろの白い靄(モヤ)の中から、同じ書類が何枚も出てきた。
それが女神と部下たちに行き渡り、私は後ろを振り向き副隊長に見せてもらう。
私はすぐさま思い出し
「あっ、こいつ出所してたんだ。アルテミスの屋敷にしのびこんだってこと?」
「んーその辺は・・もう少し調べてみるわ。たぶん2、3日前だと思うんだけど・・・」とアルテミス
べロニカが
「銀河連合にも、指名手配を依頼しましょう。」
太陽の女神ホルスが興味深そうに
「どうやって鏡の形を見分けたのかしら? ねぇ。」
と火の女神で妹のマーズちゃんに声をかけ、彼女は書類を見ながら
「適当だろ?」
月の女神のルナが
たまたま丸い鏡にして、たまたま最悪の神の鏡を手に入れたっていうの? ねぇ。」
と言って私を見る。私はうなづき、花の女神フローラが無邪気に
「私の鏡だったら、お花が出せるのに」
とハートの鏡をかざし、花と花びらを円卓の上に降らせ、母親の大地の女神ガイアが
「おやめなさい、食べ物の上に花を降らせるのは。」
と、たしなめる。

「第二都市の学校に入学します。」

私は立ち上がって、両手を円卓の上につき
「それで、第二都市のことなんだけど、」
「あっ、はいはい、」
と市長さんが顔を上げ私を見た。その他の者たちも一斉に私に目を向ける。
「第二都市の学校に入学します。」
「・・・えぇーーーー!?」(全員)
「な、何を考えているんですか?」と副隊長は慌て
「えっ、えっ、入学ですか?転入じゃなくて?」と市長さん
「あっ、転入になるのかな?」
「中学校しかありませんけど・・・」
「えっ、そうなの?」
「俺も入学する!」とマーズちゃんが立ち上がり
「俺も!」とバッカスも立ち上がる。
「おやめなさいな。学校でお酒は飲めないんですよ。」とリリス
「マジかよっ!」とバッカスは頭をかかえて座り
「そうですな、まあ、夜に食堂で少し嗜(タシナ)む程度でしたら」
「うわー無理だ!」
「私、行ってみたい。」とオフィーリアは手を上げて立ち上がり
「何年生で?」と部下の藍白
「えーと、何年生?」とオフィーリアが私に聞き
「えーと、1年生。」と、私は適当に答え
「じゃ、私は2年生。」とオフィーリアは手を上げ
「じゃ、俺は3年生で行こ。」とマーズちゃん
マーズちゃんの部下のトカレフが
「マーズ様、もう少しお考えになって下さい。」
「なんでだよ、こういうのは早いほうが良いんだろ?」と、彼女を見る。
フローラがおそるおそる
「私も行っていいでしょう? お母様?」
とたずね
「そうね・・・」
と考え込んでいる。

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次回
第1章ー王宮
5,「相手は弱った心につけこむから、自分をしっかり持つのが一番大事
どんなに強い武器を持っていたとしても、心が折れてしまえばだめだから。」

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